新奇環境・刺激へのストレス適応能力は、胎生期の母親からの影響や新生仔期の授乳を含めた母親の養育行動の良し悪しと関連することが、マウスやラットなどの動物実験によって明らかにされてきた。一方、イヌにおいても母仔分離時期などがその後のイヌの問題行動の発現と関連していることがアンケート調査などによって示唆されているものの、その背景となる神経内分泌学的機序は明らかにされていない。そこで本研究では、イヌの発達段階に伴う母仔の行動・神経内分泌変化を評価し、胎生期を含んだ母仔関係と成犬時の新奇刺激及び環境への適応性の関係を明らかにすることを目的とした。イヌの母性因子の定量化を目的とした実験1より、母イヌの養育行動に費やす時間の推移が個体によって異なることが明らかとなり、イヌの内分泌発達の過程を調査した実験2の結果から、仔イヌのストレス不応期は4週齢前後であること、7週齢までにはHPA軸がほぼ成熟することがほぼ特定された。さらに、離乳期におけるストレス応答性と成長後の応答性には関連がみられ、いくつかのパターンに分類することができ、胎によって傾向が異なる可能性も示唆された。また、実験1、2より、母犬の授乳及び舐め行動の持続時間と子犬のストレス応答性の間に何らかの関連がみられることが示唆された。以上のことから、イヌにおいてもげっ歯類と同様に具体的な母犬の養育行動の質がその後の気質の形成に影響をあたえることが示唆された。
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