本研究の目的は国内のクロマグロ沖合養殖を実現させるために不可欠な情報となる、浮沈式沖合生簀内における養成環境の変化に対する養殖クロマグロの反応行動を明らかにすることである。クロマグロの行動計測を通して、浮沈操作による養成空間の変化や潮流による生簀容積減少がもたらすクロマグロへの影響を行動学的視点から把握し、浮沈式生簀の浮沈操作の方法を具体的に提言することを本研究の目標としている。平成21年度に行った養殖クロマグロの行動計測実験では、行動を記録する記録計を実験個体に装着したため、記録計(データ)の回収がマグロの出荷時に限られるため、記録計の回収に至っておらず、記録計の確実な回収が課題となっていた。平成22年度の行動計測実験では、記録計を指定時刻に回収できるポップアップシステムと、超音波発信機を用いた遠隔測定システムを用いて、記録の確実な回収を行った。超音波発信機を養殖クロマグロに装着して養殖生簀内の行動を測定するとともに、養成環境の測定を行い、取得されたデータから養殖クロマグロの反応行動を分析した。浮沈式沖合生簀において、クロマグロ当歳魚に超音波発信器を取り付け遊泳深度と摂餌行動を測定した。取得された記録から養成環境の変化に対するクロマグロの反応行動の分析を行い、冷水塊の差し込みによる養殖クロマグロの顕著な行動変化をとらえ、温度躍層下に浮沈式生簀を急激に沈下させることに注意を払う必要があることを示唆した。養成環境の変化を経験したクロマグロはその後も通常通りに摂餌行動を行っていた。行動記録計を養殖クロマグロに装着し、ポップアップさせて回収した記録計のデータにより、クロマグロの3次元遊泳経路の計測に成功した。この成果により浮沈操作による養成空間の強制的な変化や潮流による生簀容積の減少がクロマグロの遊泳行動にどのような影響をもたらすのかを具体的に評価できるようになった。
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