本研究は食中毒防止の様々な対策が講じられていても発生する食中毒に対し、微生物生態学的視点から汚染防止策を提案するための基礎研究である。調理環境で二次汚染例のある腸炎ビブリオを対象に調理器具や食品における汚染の広がりを可視化し、評価することを目的とした。本年度は、腸炎ビブリオのGFP株を接合にて作製した。Zobell2216E寒天培地にその株を塗布し、LED蛍光励起用光源装置VISIRYAS(ビジレイズ)とデジタルカメラを用いて1時間ごとのインターバル撮影にて24時間連続観察を行い、腸炎ビブリオの増殖を蛍光強度の変化にて捉えることができた。このことから、今後予定している調理器具上での腸炎ビブリオ汚染の広がりを把握する際に、GFPの蛍光を経時的に観察できるシステムを整えることができたことになる。次に走化性を評価するための予備検討を行った。多くのビブリオ属細菌の走化性実験における陽性対照にはセリンが用いられているので、作製したGFP株と野生株のセリンに対する走化性を検討した。評価方法は、定性的ではあるが、簡便な手法として知られているアガロースプラグアッセイにて行った。GFP株と野生株のどちらもセリンを混ぜたアガロースプラグ周囲に菌体が集まったリングが同様に形成されたことで、セリンに誘引されることが確認でき、gfp遺伝子の導入と発現が走化性に与える影響は低いと考えられた。また、GFPの蛍光でリングを撮影すると、より明確な画像が得られた。セリン以外のアミノ酸や魚介類の粘液などもアガロースプラグに混ぜて走化性の評価を行い、誘引されるサンプルとそうでないものを確認することができ、今後はより詳細な検討と定量的なアッセイにて走化性を評価する予定である。
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