細菌の化学走性を定性的に評価する方法として、アガロースプラグアッセイが知られている。本法は、細菌が誘引性を示すような物質をアガロースと混合し、円柱状に固化させたプラグをスライドグラス上に置いて周囲を細菌の懸濁液で満たす。プラグから形成される物質の濃度勾配に対して誘引され、走化性を示す場合には、細菌にとって適正な濃度領域に菌体が集積してリングが形成される。走化性を示さない場合は細菌集積リングが形成されず、リングの有無で走化性を定性的に評価できる。本年度は、昨年度に作成した腸炎ビブリオGFP株と様々な魚介類粘液を用いて走化性の評価をアガロースプラグアッセイにて検討した。 本研究の結果、検討した27種類の魚介類粘液のうち、マアジ鰓、マダイ鰓、スルメイカ直腸、エビ頭、マガキ鰓、ゆでだこ体表の6種類で明確な菌体集積リングが確認できた。また、昨年度に構築したLED蛍光励起用光源装置VISIRYAS(ビジレイズ)とデジタルカメラを用いた観察システムにて誘引物質に対して腸炎ビブリオが5分以内という短い時間で速やかに反応し、適正濃度域に集積することを経時的に可視化し、記録することができた。さらに腸炎ビブリオの誘引性は魚介類の種類やその部位によって異なることが示唆された。よって、本研究の目標であった腸炎ビブリオ走化性の可視化を研究期間内に達成することができた。今後、より多くの魚介類粘液について評価することで、食品検査における魚介類の重要検査部位や取り扱いに注意を要する魚種を選抜することができるかもしれない。また、定量的な方法と合わせて、誘引性の確認された粘液間の比較なども行う必要があると考える。
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