本研究は、哺乳類概日時計の中枢である視交叉上核の神経回路網の性質を明らかとする為に、光イメージング技術を用いて多数の神経細胞から同時に活動を記録することを目的として行われた。特に1光子および2光子共焦点レーザー顕微鏡を用いた多細胞カルシウムイメージングを行う事により、光入力によるシナプス応答や細胞内カルシウム濃度変動を高時間空間解像度で捕らえることを試みた。視交叉上核での蛍光共焦点イメージングは世界的にも殆ど行われていない為、研究に先立ち顕微鏡観察システムの構築と実験条件検討に重点を置き研究を進めた。高速フレームレートで撮影可能な共焦点顕微鏡システム及び多光子顕微鏡を構築し、また多数の神経細胞にカルシウム蛍光指示薬を負荷する方法の検討を行い、単一細胞解像度で数百の神経回路網からカルシウム濃度変動を測定する事を可能とした。また多光子顕微鏡観察により標本深部からの応答を記録することや、時計遺伝子レポーター動物を用いる事により遺伝子発現パターンを網羅的に可視化することを可能とした。同システムでは、シナプス応答のような速い神経活動が観察でき、特に比較的短期間の観察(数時間)であれば大きな威力を発揮することが分かった。しかしながらレーザーの連続長時間照射により細胞が光退色や障害を起すため、概日リズムのような長期間観察のためにはさらなる低侵襲な観察法が求められた。並行して回転板式共焦点の構築を行い長期間観察を試みた所、顕著な退色と毒性の改善が認められた。二つの方法を組み合わせる事で、神経回路網の性質を高速から長期間の時間的に広範囲な観察が可能となった。本研究課題により構築した顕微鏡システムを用い、今後は神経間連絡の実体やそのメカニズム、さらには多細胞ネットワークとしての性質を明らかにして行きたい。
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