研究課題
従来、非特異的生体防御機構として捉えられていた自然免疫系は、獲得免疫系とは異なり、「菌応能」を持たないと考えられてきた。しかし近年の研究により、自然免疫系のみを有する生物種においても特定の感染刺激/環境ストレスを「記憶」し、適応していると考えられる現象が観察されている。これらの分子機構の解明は、生物が元来有する生体防御能を利用した医薬・農水産業/病虫害対策への応用と生態系保全の両立を可能にする新たな知識創出に繋がると考えられる。本研究では、比較的シンプル且つ高等生物種間でよく保存された自然免疫系を持つショウジョウバエをモデル生物として解析を進めることで、自然免疫系における「記憶」の実態に迫り、生体防御戦略上、進化的に保存されていると予想される分子基盤の迅速な発見と理解を目指している。自然免疫系における「適応/記憶」が世代を超えて観察されるか検証するために、ショウジョウバエモデルを用いて、複数世代にわたって病原性細菌感染実験を行った。感染刺激を与えた個体群と、感染刺激を与えない対照群において、次世代以降での感染抵抗性に統計的有為差が観られるケースもあり非常に興味深い。また、遺伝子発現プロファイリング解析の結果、複数世代感染を繰り返した個体群と感染歴の無い対照群では、次世代以降での感染刺激に応答した遺伝子発現パターンに違いが観られた。今回の結果から、自然免疫系のみを有する生物種においても、特定の感染刺激/環境ストレスを何らかの機構により「記憶」することで、適応に繋がりうる可能性が考えられる。
すべて 2010
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Development, Growth and Differentiation
巻: 52 ページ: 527-532