発語は、語想起、音韻の系列化、構音運動の実行を含む複雑な心理過程である。ヒトに固有の禍程であるため、動物実験で得られる知見は限定的であり、発語過程の神経基盤には未解明の点が多い。本研究では、慢性硬膜下電極を留置する難治性てんかん症例において、頭蓋内脳波、皮質電気刺激、f MRIの3つの手法を統合的に用いることにより、発語の電気生理学的過程を明らかにすることを目標とする。 平成21年度は、複数の課題(動詞生成、復唱、音読、語想起、呼称など)を作成し、3名の難治性てんかん症例において慢性硬膜下電極から課題施行中の誘発反応の記録を行った。幅広い帯域でみられた誘発反応のうち、もっとも強い活動は80-120Hz前後の高ガンマ帯域でみられた。5つの課題の中で動詞生成課題において最も顕著な活動が観察された。部位としては左半球中-下前頭回、運動前野周囲から強い反応が観察された。本研究で用いた頭蓋内電極は電極間間隔5mmと密であり、先行研究と比較して良好な空間分解能が得られた。誘発反応の潜時には、近接する電極間でも大きな解離がみられ、発語過程における皮質の機能単位を推定する上で貴重な知見と考えられた。f MRIについては、正常者ならびに脳外科症例の術前検査として動詞生成課題を行い、個体レベルで測定および解析を行った。右利き者では90%以上の被験者において運動前野および腹側前頭前野から左半球優位の活動が観察された。硬膜下電極留置症例についても測定を行い、頭蓋内脳波で言語課題に関連して誘発反応がみられた部位に一致してf MRIでも賦活がみられた。
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