発語は、語想起、音韻の系列化、構音運動の実行を含む複雑な心理過程である。ヒトに固有の過程であるため、動物実験で得られる知見は限定的であり、発語過程の神経基盤には未解明の点が多い。本研究では、慢性硬膜下電極を留置する難治性てんかん症例において、頭蓋内脳波と既存のイメージング手法を統合的に用いることにより、発語の生理学的過程を明らかにすることを目標とした。平成22年度は、前年度までに作成した複数の言語課題を用い、言語課題施行中の誘発反応の記録を行った。いずれの課題においても、刺激呈示と反応開始指示の間に2秒間の遅延を挿入し、感覚、運動に関連する過程と語想起や単語の把持に関わる過程を分離して測定した。幅広い帯域でみられた誘発反応のうち、とりわけ顕著な活動が80-120Hz前後の高ガンマ帯域でみられた。主として上側頭回、中前頭回、下前頭回、中心前回からそれぞれパターンの異なる課題特異的反応がみられた。上側頭回からは主として聴覚反応が観察された。中前頭回からは、語想起を要する課題に限定した反応がみられた。下前頭回からは、視覚提示・聴覚呈示に共通の、多様式の刺激入力に関連する反応がみられた。運動前野の電極からは、構音運動に対応した反応のほか、感覚刺激および遅延期間にも持続的な反応が観察された。他の手法との比較として、fMRIでは、概して頭蓋内誘発反応が観察された部位を含む、より広い範囲で反応がみられた。皮質電気刺激においては、誘発反応と同様の課題特異的反応が観察されることがあった。皮質電気刺激による結果との整合性がみられたことから、頭蓋内脳波誘発反応は今後脳外科症例のマッピングにおいて臨床的に応用されることが期待される。
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