研究概要 |
Notchシグナルによる臍帯血造血幹細胞の体外増幅の知見などから、ヒトiPS細胞からの造血幹細胞誘導法の確立にあたり、Notchシグナルの応用によって誘導効率を高められる可能性がある。そこで、Notchシグナルの下流にあるHeslに注目し,Heslが造血幹細胞の制御にどのように関わっているかを詳細に解析した。特に、神経細胞などではHeslタンパクの周期性発現が知られており(発現振動)、造血においてもHesl発現振動がみられるかを検証すべく、H21年度は発現パターンを観察する系を立ち上げた。Heslプロモーターの下流にルシフェラーゼおよびユビキチンをコードする遺伝子を配した遺伝子を持つトランスジェニックマウスでは、Heslの発現をルシフェリンの発光としてとらえることができる。造血幹細胞/前駆細胞が濃縮されている細胞集団である分化マーカー陰性c-kit陽性細胞[Lin(-)c-kit(+)細胞]をこのマウスの胎仔肝から分取し,Hesl発現を示す発光を観察することに成功した。H22年度は、Lin(-)c-kit(+)細胞よりもさらに造血幹細胞が濃縮されているLin(-)c-kit(+)Sca-1(+)細胞(KSL細胞)を用いると発光を同定できる確率が上昇することを見出し、KSL細胞を用いて長時間の観察を行った。発現振動は認められなかったが、Heslの発現は極めて短時間(1~2時間程度)で終息するということが証明された。H22年度中にはこの一過性発現が造血幹細胞におよぼす作用は解明できなかったが、造血幹細胞の制御機構の解明につながる成果であった。今後、Heslによる造血幹細胞制御機構を明らかにし、iPS細胞からの造血幹細胞分化誘導法の確立に役立てたい。
|