本研究では、移植片対宿主病(GHVD)発症におけるDNAM-1の関与を検証し、DNAM-1がGVHDの予防及び治療の標的分子となり得るかを評価することを目的とした。GVHD発症におけるDNAM-1の関与を検討するため、GVHDモデルマウスとして、B6マウス(H-2b)の脾細胞を半致死量放射線照射したB6C3F1マウス(H-2b/k)へ移入する実験系を用いた。これらモデルマウスヘ、抗DNAM-1中和抗体あるいはコントロール抗体100μgを移植日前日から隔日で計10回、予防的に腹腔内投与した。その結果、抗DNAM-1投与群において有意な生存期間の延長が認められた。また、抗DNAM-1抗体を予防的に投与されたマウスは、コントロール抗体投与群と比較して肝障害の指標である血清中ALTが有意に低値であり、組織学的解析から肝と小腸における組織障害が軽度であることが確認された。更に、抗DNAM-1投与群では、ドナーCD8陽性T細胞数が対照群に対して少ないことが確認され、DNAM-1がドナーCD8陽性T細胞の増殖に必要であることが示唆された。次に、抗DNAM-1抗体のGVHD治療効果について検討した。上記のモデルマウスに対し、抗DNAM-1抗体あるいはコントロール抗体300μgを移植後14日目から毎週、計10回を治療的に腹腔内投与した。その結果、抗DNAM-1投与群において生存率が有意に亢進することが確認され、GVHDによる血清中ALTやIFN-γ濃度の上昇も抑制された。また、ドナーCD8陽性T細胞の増殖が抑えられた。更に、ドナーCD8陽性T細胞上のDNAM-1の発現レベルと血清ALT濃度との間に有意な正の相関があることが明らかとなった。以上から、DNAM-1はGVHDの発症・増悪に関与すると考えられた。現在まで、GVHDモデルマウスを用いた実験系において、GVHD発症後に中和抗体投与によって顕著なGVHD治療効果が得られた分子標的はほぼ皆無であり、DNAM-1はGVHDの治療における新規の有用な分子標的であると考えられた。
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