ヒトは咀嚼と唾液中のアミラーゼによる口腔内消化により産生されたぶどう糖を甘味として感知する。この甘味の感知は、生体が食物に栄養が含まれているかどうかを判断する重要な情報であるだけでなく、摂食時の消化液やホルモンの迅速な分泌に寄与していると考えられているが、そのメカニズムと生理的な役割は多くが不明である。今年度は、口腔内の消化とその後の味覚(主として甘味)感知の糖代謝制御における重要性について、主として健常人の実験により検討した。 まず、強い甘味を有する蔗糖(50g)を添加した試験食(560Cal相当)を健常人に摂取させ、摂食後早期の血糖値と血糖降下ホルモンであるインスリン値を測定したところ、摂食開始後わずか5分で血清インスリン値は有意に上昇した。一方、血糖値には明らかな血糖の上昇は認められなかった。このことから、この早期のインスリン分泌応答は血糖の上昇によるものではなく、口腔内消化と味覚の感知を介して惹起されたものである可能性が示唆された。 そこで、次に、甘味の感知がインスリン分泌を引き起こしているかどうかを直接的に明らかにする目的で、被験者(非糖尿病者)に蔗糖のみを経口摂取させ、同様に摂食後早期の血糖値と血清インスリン値の変化を観察した。すると、蔗糖添加試験食の摂食の際と同様、血糖の上昇がないにもかかわらず、摂食5分後に血清インスリン値の上昇傾向が認められ、甘味の感知が早期のインスリン分泌を惹起することが示された。 今後は、摂食時の甘味の知覚が摂食後早期にGLP-1などのインクレチン分泌を介してインスリン分泌を引き起こしたかを明らかにする。今年度は、これに先立ってGLP-1の血漿濃度を測定するプロトコールの条件設定を行った。
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