研究概要 |
発生過程において個々のニューロンがどの様な分子メカニズムによって神経回路網を形成するのかその形成過程の詳細は不明である。本研究では局在化シグナルを付加したGFPトレーサーを用いて発生期大脳皮質の神経回路網の可視化を行い、その回路網形成に関わる分子機構の解明を目指す。 本年度は以下の研究を行った。1.In vitroにおいてES細胞からの神経細胞への分化誘導実験を行った。10%または15% KSR(KnockOut Serum Replacement)を含む培養液中でES細胞から胚様体(Embryoid body)を形成させ、次にB27/N2/bFGFを含む無血清培地に胚様体を移して神経系の細胞を内包する細胞塊を作成した。ほぼ全ての細胞がNestin,Sox2陽性の神経前駆細胞を経てTuJ1陽性のニューロンへと分化しており、またBF1,Tbr2陽性の大脳皮質型ニューロンへと分化している事が観察された。現在トレーサーを導入したES細胞を神経前駆細胞へと分化誘導させ、個々のニューロン間で見られるシナプス形成の経時的な観察を行っている。また今後はGFPトレーサーを導入した細胞を胎児脳へ移植し、内在性の回路にどの様に組み込まれるか解析を行う予定である。2.In vivoにおいては、CAGプロモーター制御下でGFPトレーサーを発現するベクターを構築し、子宮内電気穿孔法(IUE : In Utero Electroporation法)を用いて胎生期大脳皮質(胎生期13.5日胚)の前駆細胞集団への遺伝子導入を行った。その結果、脳室に存在する前駆細胞に効率よくトレーサーが導入され、4日後(胎生期17.5日胚)の脳組織切片上で神経分化に伴う神経突起伸張及び投射経路が観察された。今後はSatb2やCITP2等の特異的な発現様式を示すPromoter制御下でトレーサーを発現させ、回路網の形成時期や投射経路の詳細な解析を進めていく予定である。
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