これまでに研究代表者はmRNA分解酵素の一つであるCCR4-NOTポリA分解酵素複合体がエネルギー恒常性の維持に関与しており、代謝酵素のmRNAを制御していることを示唆するデータを示してきた。本研究課題においてはCCR4-NOT複合体がポリ(A)分解活性を通してメタボリックシンドロームに対してどのように影響を及ぼしているかを明らかにすることを目的としている。昨年度は代謝に関わる標的候補遺伝子のmRNAの解析を行ってきた。RNaseHアッセイによりCNOT3+/-マウスにおいて発現上昇していた標的候補mRNAのポリ(A)の長さを調べ、実際に代謝酵素であるPdk4や代謝関連因子であるIgfbp1のmRNAのポリAの長さが伸長していることを明らかにした。また、Pdk4、Igfbp1のmRNAの3'UTRをクローニングしルシフェラーゼベクターの3'側に挿入し、それらのベクターとコントロールベクターを野生型マウスの肝臓からとった初代肝臓培養細胞ヘトランスフェクションし、3'UTRによるmRNAの安定性への影響を調べた。さらにCNOT3+/-マウス由来の肝臓細胞を用いて同様の実験を行いCNOT3欠損のmRNAの安定性への影響を調べた。結果、ポリA分解におけるPdk4やIgfbp1 mRNAの3'UTRの重要性を明らかにすることができた。CCR4-NOT複合体へ結合しているmiRNAやmRNAを同定するために、抗CNOT6L抗体を用いて免疫沈降を行い、RNAを単離しマイクロアレイを行った。その結果については現在解析中である。高脂肪食負荷したCNOT6L遺伝子欠損マウスを用いて、グルコース耐久性テスト及びインスリン耐久性テストを行い、また血糖値・血清中のトリグリ、FFA、コレステロール量を測定した。その結果、CNOT6L遺伝子欠損マウスにおいては野生型マウスにみられるようなインスリン抵抗性や血清中の脂質の増加はみられなかった。これらのことから、CCR4-NOT複合体のメタボリックシンドロームの発症における重要性が明らかとなってきた。今後の研究により、詳細な分子メカニズムを明らかにすることができ、メタボリックシンドロームの理解に役立つ成果が得られるかもしれないと考えている。
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