研究概要 |
近年、高い腫瘍形成能を保持する癌幹細胞の存在が明らかとなってきているが、その特徴については未解明な部分が多い。そこで乳癌幹細胞に特異的な遺伝子を同定することを目的として、まずヒト乳癌細胞株から癌幹細胞画分であるCD24-/low CD44+画分と、対照群としてCD24+CD44+画分をソーティングし、マウス移植モデルにおいて癌幹細胞画分の高い腫瘍形成能を確認した。次に、両画分の遺伝子発現パターンについてcDNAマイクロアレイによる解析を行なった。GSEA(Gene set enrichment analysis)によりアレイデータを解析した結果、癌幹細胞画分ではTGF-β pathways, Ras pathways, TNF responseならびにIFN responseに関する遺伝子セットの濃縮が認められた。また、GSEA解析から得られた癌幹細胞画分で高発現している遺伝子についてqRT-PCRによるValidationを行い、VEGFA、CCL5、IL8、SDF2LならびにTLR1の癌幹細胞画分における高発現を確認した。さらに、TNF、IFNパスウェイ共通の因子であるNF-κBの活性を検討した結果、乳癌幹細胞画分では対照群と比べてNF-κBの活性化が認められた。以上より乳癌幹細胞ではNF-κB等の炎症性免疫応答関連遺伝子群が活性化していることが示唆された。癌幹細胞による腫瘍形成の新たな分子機構を明らかにするために、今後これらの遺伝子群の癌幹細胞における役割についてさらに詳細な解析を進めていく。
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