褥瘡などの皮膚創傷は感染を生じると難治化するため、早期治療が重要であるが、細菌感染の病態メカニズムは十分明らかになっていない。そのため、有効な診断方法、治療方法が確立できず、臨床上重要な問題である。本研究では、緑膿菌の遺伝子発現制御機構であるクオラムセンシングに利用されているシグナル分子であるアシル化ホモセリンラクトン(AHL)に着目し、この物質の創傷治癒過程における生理活性について検討を行った。ラット全層皮膚創傷を作成して、5日間閉鎖状態を保って肉芽を増生させたのち、AHLを創表面へ添加した。その際の創傷治癒への影響を検討した。添加後24時間でAHL投与群において線維芽細胞の有意な発現増加を認め、それ以降の創収縮速度が促進した。また、炎症性細胞の浸潤も促進されていた。その現象を詳細に検討するため、ラット皮膚線維芽細胞株(Rat-1)を用いてin vitroで検討したところ、alpha-smooth muscle actin陽性細胞数の上昇を認めた。また、同時に線維芽細胞からのCox-2の発現上昇も認められ、線維芽細胞からの炎症メディエーターの産生並びに線維芽細胞への分化が創傷治癒に影響していることが示唆された。これらから、緑膿菌がシグナル分子として使用している物質自身が宿主の創傷治癒に影響を与え、それが感染現象の一側面を構成していることが示唆された。来年度は、炎症期に焦点を当て、炎症性細胞に与える影響を、遺伝子発現、蛋白発現の両面から検討して、創感染における緑膿菌クオラムセンシングの役割を検討する予定である。
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