本研究では、癌幹細胞ニッチで幹細胞性維持に関わるプロテアーゼについて、癌増殖・浸潤・転移に重要でかつ細胞外マトリックスに高い分解活性を持つMMPとADAMにターゲットを絞って解析する。これらのプロテアーゼファミリーに特異的なインヒビターを発現するトランスジェニックマウスを用いて、どのプロテアーゼが癌幹細胞のニッチからの離脱に関わるのかを生体内で明らかにする。癌幹細胞に関する情報は限られており、これまでに報告されたマウス癌幹細胞で働くプロモーターの特異性は必ずしも高くなく、インヒビター発現に用いるには問題が多い。一方ニッチについては、皮膚基底細胞癌の間質線維芽細胞がニッチ形成細胞として新たに注目されている。I型コラーゲンプロモーターは線維芽細胞で、働くことが既によく知られていることから、これらのプロモーターを用いてTIMP3あるいは-1AlaTIMP3を発現するトランスジェニックマウスを作製した。さらにDNA組換え酵素のCreと変異したエストロゲン受容体のリガンド結合部位と融合させたCreERT2を用いることにより、インヒビターの発現開始時期が薬剤(タモキシフェン)で調節が可能となるため、マウス胎生期からの発現による正常発育への影響を排除する。具体的には、マウスI型コラーゲンプロモーターの下流にCreERT2とルシフェラーゼ遺伝子をもつベクターを作製し、トランスジェニックマウスを作製に用いた。このマウスと、ユビキタスプロモーター(CAGプロモーター、エンハンサー/アクチンプロモーター)の下流にLoxPに挟まれたpolyAとさらにその下流にTIMP3とLacZ遺伝子をもつトランスジェニックマウスと交配させ、得られた仔マウスをXgal染色して、CreERT2の発現と局在を確認した。その結果、Xgal染色はマウス皮下の線維芽細胞に観察された。
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