国内の看護・助産養成機関で行われている人工妊娠中絶ケア教育の現状と課題を明らかにすることを目的とし、まず初めに、看護・助産養成機関で用いられている教科書や参考書から中絶ケアに関連した授業内容を特定し、その特定された項目を参考に今年度はアンケート用紙を作成した。対象施設の選定は、2011年1月現在、日本看護協会が公表している全国の看護系大学183校及び助産師養成の専門学校44校に所属する教員228名を対象に無記名自記筆アンケートを郵送法にて配布回収した。回答は55名(回収率25.4%)から得られ、対象の教育経験年数は平均14.2年であった。回答者が所属する施設で現在、中絶ケアに関する教育を提供している時間は平均3.6時間であり、大学では平均2.6時間、助産師養成め専門学校では7.2時間であった。教育内容としては、講義形式で中絶に関する日本の法律や制度を教えていると回答した者は87%、次いで緊急避妊が76.6%、家族計画や避妊が75.3%、カウンセリングに関しては23.4%と非常に低かった。看護教育と助産教育で教育内容に大きな差は見られなかった。実習形式で教育を提供していると回答した者はごく少数であり多くの教育機関では講義形式が主な教育方法であった。授業で使用している教材については教科書と回答した者が60.8%、自作資料と回答したものが58.8%であった。アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校が2007年にアメリカの看護助産養成機関を対象に調査した中絶ケア教育内容の実態と比較検討したところ、アメリカでは避妊やカウンセリング、中絶看護の実際に関する教育をほぼ全ての教育機関で実施しており日本での教育の遅れを裏付ける結果となった。日本の看護教育者の間では中絶ケア教育の必要性についての認識は低く、教材の不足や教育時間の不足を感じている回答者もおり今後、教育の重要性を教育者に伝えて行くと同時に、カリキュラムの見直しや中絶ケア教育向上に向けた教材の開発の必要性が明らかとなった。
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