うつ病や統合失調症などの精神疾患患者でDNAのメチル化やヒストン修飾といったエピジェネティックなメカニズムの異常が報告されている。現在使用されている抗精神病薬のなかにはエピジェネティックな変化をもたらす作用があるものが知られているが、詳細な分子メカニズムは不明である。また近年、本研究は抗精神病薬による脳内のエピジェネティックな遺伝子発現調節メカニズムを明らかにすること、特に近年、脳機能調節に重要な働きをしていることが報告されているグリア(神経膠)細胞に注目して研究を行った。 1.具体的内容 (1)種々の抗精神病薬のなかでリスペリドンにグリア細胞の増殖を促進及び細胞死抑制する効果を発見した。 (2)ヒストンのアセチル化がリスペリドン単独では促進しないが、ヒストン脱アセチル化阻害剤である酪酸ナトリウムとの同時投与で有意に促進した。 (3)抗精神病薬とヒストン脱アセチル化阻害剤処理がグリア細胞における炎症反応を抑制することを発見した。 2.意義・重要性抗精神病薬のなかにはヒストン修飾を変化させ、エピジェネティックな遺伝子発現を調節する作用があることが示唆される。このような薬物によるエピジェネティクス変化がグリア細胞における抗炎症反応に寄与している可能性が示唆される。抗精神病薬による脳部位間や神経細胞とグリア細胞間のコニピジェネティックな作用メカニズムの違いを明らかにできることが期待でき、副作用の影響やエピジェネティクスな遺伝子発現調節を考慮に入れた新しい治療薬の開発につながる可能性が考えられる。
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