重度の歯周病、外傷、腫瘍などによって歯牙を喪失した場合、歯槽骨の高度吸収あるいは欠損を生じ、骨移植が必要となる。しかし、従来の腸骨や顎骨からの自家骨移植では侵襲度が高く、術後合併症などの危険性が存在する。それらの問題解決のために、多くの人工材料が研究開発されてきたが、いまだ有効な代替材料は見付かっていない。こうした現状打開のため、細胞、成長因子、足場の3要素を用いた組織工学的手法による骨再生法が昨今注目されている。細胞源についてはこれまで骨髄幹細胞が検討されてきたが、より低侵襲で人体に負担の少ない細胞源が求められており、現在、歯髄幹細胞が骨再生に有利であるとして脚光を浴びている。本研究ではまず、現在臨床応用されている骨髄幹細胞との比較を行うことにより、歯髄幹細胞の増殖能、多分化能を検討した。増殖能アッセイにより、歯髄幹細胞は骨髄幹細胞と同等の増殖能を示すことが確認された。また、骨芽細胞分化培地にて培養したものをvon Kossa染色することにより、歯髄幹細胞が骨芽細胞へ分化することを確認した。また、脂肪細胞分化培地にて培養したものをズダンIII染色することにより、脂肪細胞へも分化することを確認、軟骨細胞分化培地で培養したものをサフラニンO染色することにより、軟骨細胞への分化も確認した。これらの結果より、歯髄幹細胞は、骨髄幹細胞と同等の増殖能および多分化能を有することが明らかとなり、組織工学的手法を用いた骨再生法において、有用な細胞源であることが示唆された。
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