顎骨の骨欠損部位への治療法として、細胞、成長因子、足場の3要素を用いた組織工学的手法による骨再生法が注目されている。細胞源についてはこれまで骨髄幹細胞が検討されてきたが、より低侵襲で人体に負担の少ない細胞源が求められており、現在、歯髄幹細胞が骨再生に有利であるとして脚光を浴びている。一方で、足場としては細胞外マトリックスに類似した人工材料が多く研究・開発されており、本研究で用いたマトリックスは、アミノ酸にて構成されており、安全性、吸収期間など足場材料として有用であるとされている。本研究ではまず、歯髄幹細胞の増殖能、多分化能を骨髄幹細胞と比較し検討した。増殖能アッセイにより、歯髄幹細胞は骨髄幹細胞と同等の増殖能を示すことが確認された。骨芽細胞分化培地にて培養したものをvon Kossa染色することにより、歯髄幹細胞が骨芽細胞へ分化することを確認した。脂肪細胞分化培地にて培養したものをズダンIII染色することにより、脂肪細胞へも分化することを確認、軟骨細胞分化培地で培養したものをサフラニンO染色することにより、軟骨細胞への分化も確認した。一方でこれらの細胞を一部6か月間凍結保存し、同様に増殖能、多分化能を検討した結果、凍結保存により増殖能は4%程度減少を認めたが、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への分化は同様に認めた。犬の顎骨の骨欠損部位への移植も行い、凍結保存を行った歯髄幹細胞においても良好な骨形成能を示した。これらの結果より、歯髄幹細胞は、骨髄幹細胞と同等の増殖能および多分化能を有することが明らかとなり、一旦凍結保存を行った後も組織工学的手法を用いた骨再生法において有用な細胞源であることが示唆された。
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