研究概要 |
大腸癌発生過程の多段階発癌に関与する遺伝子異常が明らかにされてきており、糞便を検体としてこれらの遺伝子異常を検索することで、より精度の高いスクリーニング法の確立が試みられている。また一方で、便潜血検査に代替しうる末梢血を用いた新たな大腸癌バイオマーカーの検索や、進行性大腸癌における新たな予後マーカーの確立もまた、大腸癌治療を飛躍的に進歩させる一助となりうる。 本研究は大腸癌患者群と健常者群の糞便中cDNAと末梢血を用いて、大腸癌におけるあらたなバイオマーカー/予後マーカーを検索し、あらたな検査方法を確立することを目的とする。我々はDPEP-1(Dipeptidase-1)が免疫染色で大腸癌組織においてのみ、特異的に発現していることを確認し、FAP(familial adenomatous polyposis)において、p53変異の後に発現することを確認した。以上のことからcarcinogenesisにおいて、DPEP-1はp53変異より、より悪性度の高い腫瘍の早期検出の可能性を考慮した。また大腸癌患者糞便中cDNAからは多数の臨床検体で有意差を認める有用なマーカーを指摘できなかったものの、大腸癌組織におけるsIL-6R発現低下がtrans-signaling pathwayを介する大腸癌進展に深く関与する可能性を確認し、報告した。また大腸癌患者術前末梢血を用いた検討では、cytokine arrayを施行し、CXCL10,CXCL16,などが、大腸癌stageIV群で高値を示し、大腸癌術前血清約200例をもちいた検討でも、肝転移との相関を強く認め、予後マーカーとしての有用性が示唆された。肝転移との相関を強く認めたことから、臓器特異性転移のメカニズムに深く関与する可能性を考慮し、今後はその解明を継続していく予定である。
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