本研究では、離島で独居生活をする大腿骨骨折術後の後期高齢者における、"生活の術"を明らかにすることを目的とした。研究方法は、情報提供者自宅に通い、又は宿泊にて寝食を共にし、エスノグラフィーの手法を用いて参加観察とインタビューにより平常時の暮らしぶりの情報を収集した。研究期間は平成21年~22年度の2年間。情報提供者は、A島B市に居住する大腿骨骨折術後の1)女性独居後期高齢者8名、2)男性独居高齢者2名で、術後経過順調な方(ADL及び自立歩行が回復過程にある方)とし、認知症状のある方は除外対象とした。 その結果、離島に居住する大腿骨骨折術後の女性後期高齢者の"生活の術"は、以下のように8つの大カテゴリーと24の中カテゴリー、70の小カテゴリーが抽出された。以下に8つの大カテゴリーを記述する。1)逆らえない南国の自然を受容、2)ひとり身の境遇で自らを鼓舞しつつ選んだ生活、3)継続して働くことが誇り、4)旅に出ている家族による精神的支えと経済的支え、5)多くの信仰から今の自分に合ったものを選択、6)生活を補完する公的支援を見極めて利用、7)互酬性が根付いている土壌、8)しがらみのあるシマ社会。 以上より、離島に居住する独居高齢者は、猛暑や台風という厳しい自然環境下での生活を受容し、海上にある島嶼性故に家族と離れざるを得ない境遇にありながらも、継続して働き続けることを誇りにしていた。また祖先崇拝をはじめ、自らに適した様々な土着信仰を信心することで自らを慰めて心のより所を得ていた。そして、シマ社会という地縁・血縁を基盤とした相互扶助ネットワークを用いながら、しがらみを見極めた交際を巧みに行っていた。また、男性後期高齢者の"生活の術"は、祖先崇拝による精神的基盤、出来る限り頼りたくない思いと自尊心であることが明らかになった。
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