研究概要 |
申請者は今年度、水酸基を有する様々な不斉チオ尿素を合成しこれらを用いてイミンへの有機ホウ酸試薬の不斉1,2-付加反応の開発に着手した。初期検討としてエチルグリオキシレートとアニリン類から調製したイミンを基質として用い種々の触媒の検討を行ったが、検討したどの触媒を用いても立体選択性は非常に低い値であった。そこで基質のエチルエステル部位をジメチルアミド構造へと変換して再検討を行った。その結果、ジメチルアミド構造を有する基質においても申請者の研究グループが以前報告したアミノアルコール型チオ尿素とイミノフェノール型チオ尿素はうまく機能しなかったが、今回の期間で新たに開発した触媒のうちの一つを用いることによって51%までエナンチオ選択性を向上させることができた。さらなる不斉収率の向上を目指して反応条件の最適化を試みたところ、用いる有機ホウ酸試薬を鎖状のジアルキルエステルとすることでエナンチオ選択性が改善されることが分かり、アミド窒素上の置換基をメチル基より嵩高いイソプロピル基に置き換えることでさらに立体選択性が向上することを見出した。また、モルホリンアミドのような環状のジアルキルアミドにおいても73%と高いエナンチオ選択性を得ることができた。環状構造を有しC=N, C=Oの2つの2重結合が互いにantiの方向を向くよう構造を固定化した基質においては反応が全く進行しなかったことから本反応においては基質の2つの2重結合の向きが非常に重要であることが示唆された。 以上のように今年度申請者はイミンへの有機ホウ酸試薬の不斉1,2-付加反応を検討し、その結果本反応において良好に機能する新たな不斉チオ尿素触媒を発見するに至った。
|