研究概要 |
申請者は昨年度見出だしたエーテル型ヒドロキシチオ尿素触媒を用いてNアリールα-イミノアミドへの有機ホウ酸試薬の不斉1,2-付加反応すなわちペタシス反応に着手した。まず基質の前駆体であるグリオキシルアミドについて昨年度まで用いてきたジアルキルアミドから一方のアルキル基をアリール基に置換したものを検討したところエナンチオ選択性は大きく向上した。また種々の溶媒を検討した結果、本反応は低極性溶媒中で高いエナンチオ選択性を発現することが分かりシクロヘキサンを用いることで92%のエナンチオマー過剰率を達成した。その後有機ホウ酸試薬およびイミン窒素上の置換基の適用範囲について探索し、前者においては種々のビニルホウ酸試薬が利用可能であり、後者については特に電子豊富なアリール基を有するものが適していることが分かった。本反応で得られた生成物に対して更なる分子変換を施したところ、付加生成物から3工程で薬理学上有用な多置換テトラヒドロキノリン骨格を有する化合物へと効率よく導くことができた。本反応の利点はそれだけにとどまらず、基質としてあらかじめペプチド構造を有するものを用いることでペプチドに対する直接的な異常アミノ酸ユニットの導入も可能であった。申請者は今期、本方法論によってα-スチリルグリシンを含むジベプチドおよびトリペプチドの合成に成功した。以上のように今期申請者はN-アリールα-イミノアミドへの有機ホウ酸試薬の高エナンチオ選択的不斉ペタシス反応を達成した。本反応は今後、ケミカルバイオロジーの1分野として重要な生体分子の修飾すなわちバイオコンジュゲーションの新しい方法論として展開可能であることが期待される。
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