本研究は、炎症反応における主要な転写因子であるNFκBの最も重要なキナーゼとされているIKKβが有するキナーゼ非依存的役割に注目することによって、炎症反応を新たな側面から捉え、そのメカニズムを解明することを目的として行われた。具体的にはIKKβを中心とした蛋白結合の検討と、薬剤によるIKKβへの影響、及び臓器特異的IKKβノックアウトマウスの三つを柱として研究を行った。まず蛋白結合に関しては、予想されるいくつかの蛋白について検討を行ったが安定した結合を示す結果を得られなかった。このため、MALDI-TOFを用いた質量分析によってProteomicsを行い、wild-type IKKβ、kinase-active IKKβ、kinase-dead IKKβそれぞれに結合する蛋白を網羅的に解析を行った。その結果、癌、動脈硬化などに関連するいくつかの興味深いタンパク質が同定され、またそれは免疫沈降にても確認された。これらの結果については更にメカニズムを追求している。薬剤によるIKKβへの影響については、IKKβ阻害薬として報告され、また抗炎症剤として最も広く用いられているアスピリンを中心に検討を行った。長時間のアスピリン刺激によって細胞内のシグナル蛋白が影響を受けていることを見出し、そのメカニズムを検討するためにアスピリン刺激した際に細胞上清に認められる蛋白の同定を上記同様のProteomicsによって行った。その結果、癌、アルツハイマー、動脈硬化に関連するいくつかの興味深いタンパク質が同定され、またそれはウェスタンブロット、ELISA法にても確認された。これらの結果については更にメカニズムを追求しており、近い将来に報告がされる予定である。臓器特異的IKKβノックアウトマウスについては平滑筋細胞特異的IKKβノックアウトマウスを作製したところ興味深い表現型が認められており、現在各種疾患マウスモデルの作製も含めて鋭意解析中である。
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