感染症は宿主と病原微生物、すなわち異なる遺伝情報系の間の相互作用が引き金となって生じる疾患である。感染現象および感染症発症機構を真に理解するためには、病原微生物そのものの増殖・生活環、および病原性発現機構の理解を深めると同時に、宿主個体の病原微生物に対する応答機構も十分に理解する必要がある。本計画では、病原細菌が宿主に感染した際に、どのような細胞制御が行われるのかを、細菌側および宿主側の両反応を解析することにより解明し、感染システムの動作原理を理解する。本年度は、宿主側の病原菌感染防御システムに重要である自食作用(オートファジー)の解析を行った。 オートファジーは真核生物に普遍的に見られる現象であり、細胞内の不要タンパク質や病原菌を分解し、生命の維持に重要な役割を果たしている。オートファジーが起ると、細胞質にオートファゴソームと呼ばれる直径1ミクロン程度の特殊な膜構造が現れ、不要タンパク質や病原菌を取り囲む。この膜の起源は生物学における50年来の謎であった。 研究代表者は、オートファジーに重要な遺伝子を変異させた細胞では、オートファゴソーム膜の成長が途中で止まることに着目、その近くには常に小胞体が存在していることを見いだした。さらに、電子線トモグラフィー法を用いて膜構造を3次元的に解析した結果、小胞体の一部から膜が伸びて、オートファゴソーム膜になっていることが明らかになった。小胞体は成長するオートファゴソーム膜の"ゆりかご"としても働き、丸い膜を形作る手助けをしていることが示唆された。 オートファジーは病原菌分解の他にも心不全や、がん、糖尿病などの発症を抑える役割も持っており、詳しい仕組み解明が医療に役立つと期待できる。
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