本研究課題の主たる目的は、Necdin-Sirt1複合体による神経発生、分化及び生存に係る転写因子の翻訳後修飾、特にアセチル化修飾の調節と様々な神経の生理的現象との相関に迫る事である。本研究課題において、摂食調節に係るFoxolに着目し、Necdin-Sirt1複合体がこの因子のアセチル化調節とその生命現象にどの様に関与しうるかを検討している。平成21年度においてはNecdin-Shit1複合体によるFoxolの脱アセチル化制御と転写活性との相関に関し明らかにしたが、当該年度においてはこの関係性を内在性のレベルで解析する事に成功した。具体的には、視床下部組織由来のクロマチン免疫沈降法を用いて、Foxolが標的とするAgrpプロモーター上に、Foxol同様、Necdin、Sirt1ともに結合している事を明らかにした。また、三者が内在性に結合する事も見いだした。プラダー・ウィリー症候群(PWS)のモデルマウスであるNecdin欠損マウスの視床下部では活性型であるアセチル化Foxolが神経内分泌物AgrpやNpyの産生を促進し、これに伴う低体温症の異常を示していたが、体温調節に係るホルモン(TRH、TSH、T4及びT3)の量はいずれも減少していた。また、このマウスにおいて離乳期特異的な摂食亢進、及び、成体期における肥満を示す事を明らかとした。これら体温調節の異常、過食を伴う肥満はいずれもPWSの主症状に挙げられることから、今回の研究成果から見いだしたNecdin-Sirt1複合体によるFoxolのアセチル化制御がこの症候群の発症メカニズムの解明に大きく寄与する事が出来たのではないかと考えられる。現在、学術雑誌に投稿に向け、準備を進めている。
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