研究概要 |
(背景・目的)薬剤排出ポンプの機能亢進は、各種抗菌薬耐性に関連するといわれている。当院およびその関連施設では、尿路感染症の主たる原因菌である大腸菌において各種抗菌薬耐性の増加傾向を認めている。今回我々は大腸菌の臨床株を用いて、薬剤排出ポンプ遺伝子の発現量と抗菌薬耐性の関連について検討した。 (対象と方法)対象は、2008年4月より7月までに尿路感染症患者の尿中より分離された大腸菌64株で、尿路基礎疾患の有無、levofloxacin(LVFX)に対する耐性の有無別に4つの群に分類した。LVFX耐性を38株(59.4%)に、尿路基礎疾患は45株(70.3%)に認めた。薬剤排出ポンプを構成する蛋白をcodeするmarA、yhiU、yhiV、mdfA遺伝子について、real-time RT-PCRを用いてRNA発現の相対定量を行った。標準株の2倍以上のRNA発現量を示した株を高発現株と定義し、RNA発現量と各種抗菌薬耐性、各群との相関について統計学的に解析を行った。 (結果)全64株中、marA、yhiU、yhiV,mdfA遺伝子が高発現を示したものは。それぞれ52、23、17、22株であり、単変量解析の結果、cefepime(CFPM), nalidixic acid(NA), ciprofloxacin(CPFX), LVFX, sitafloxacin(STFX)とmarA遺伝子の高発現、LVFX,STFXとmdfA遺伝子の高発現の間に相関を認めた。多変量解析の結果、CFPM,NAがmarA遺伝子の高発現、minocycline(MINO)とyhiV遺伝子の高発現、STFXとmdfA遺伝子の高発現の間に相関を認めた。また、リスク因子との関連解析について、marA遺伝子の高発現と性別、yhiU遺伝子の高発現と年齢、yhiV遺伝子の高発現と尿道カテーテルの有無の間に相関を認めた。また、marA遺伝子の高発現と複雑性尿路感染症でLVFX耐性を認める群、yhiU遺伝子の高発現と複雑性尿路感染症でLVFX耐性を認めない群の間に相関を認めた。 (結論)尿路感染症由来の大腸菌における薬剤排出ポンプ遺伝子において、marA遺伝子の高発現とCFPM,NA耐性の相関を認め、marA遺伝子の発現が交差耐性に関与している可能性が示唆された。また、yhiV遺伝子の発現はMINO耐性、mdfA遺伝子の発現は新規フルオロキノロン系抗菌薬であるSTFX耐性に、それぞれ関与している可能性が示唆された。
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