研究概要 |
本年度はキラルカルバニオンの立体化学的安定性に対する溶媒効果の解明,及びキラルカルバニオンと求電子剤との反応の立体化学の解明を目的に検討を行い,以下のような成果を得た. 1.種々の溶媒中で発生させた,フェニル基のメタおよびパラ位にシアノ基を有するホモキラルなベンジルカルバニオンを[2,3]-Wittig転位反応で捕捉し,その際の不斉誘起の程度を比較した.1,4-dioxane,NMM中ではm-置換体とp-置換体で不斉収率が変化したのに対して,Et_2O,CPME,MTBE中ではほとんど変化がなかった.この違いは1,4-dioxaneなどの環状エーテルとEt_2Oのような鎖状エーテルでは,リチオカルバニオンに対する溶媒和の機構が異なることを示唆している.また,HMPAなどのLiイオンに配位する添加剤を用いた場合に不斉収率が大きく低下するという昨年度の結果を考慮すると,キラルカルバニオンに対する溶媒効果の違いは,そのLiイオンに対する溶媒和の程度の違いによるものと推測される. 2.ホモキラルなアリルベンジルカルバメートから発生させたキラルカルバニオンの求電子置換反応の立体化学を種々の溶媒を用いて検討した.その結果,求電子剤がプロトン源の場合には立体保持,アルキル化剤あるいはアシル化剤の場合には主として立体反転で進行することが明らかになった.また本反応の立体化学は溶媒によっても大きく影響されることがわかった.これらの結果は,求電子剤や用いる溶媒の組み合わせにより反応の立体化学が大きく変化するという興味深い知見である. これまでに,キラルカルバニオンの立体化学的安定性や電子求引基に隣接するカルバニオンの求電子置換反応の立体化学についての報告はほとんどない.したがって,以上の結果はキラルカルバニオンの化学に関する新たな知見を提供するものである.
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