本年度は、ラット脳の蛋白ライセート及びラット血清・血漿中のpro-domain BDNFの検出系の確立を試みた。研究代表者は以前、当時所属していたスイス・バーゼル大学Yves-Alain Barde教授の研究室において、市販のpro-domain BDNF抗体を用いて、免疫沈降法及びウエスタンブロット法により、脳ライセートにおいて内在性pro-BDNF及びpro-domain BDNFの特異的な検出に成功した。その後の研究により、脳神経細胞においてpro-BDNFは、その生合成後、細胞内で速やかにpro-domain BDNFとmature BDNFに切断され、これら2つの切断産物が軸索末端まで共に輸送され、細胞外へ分泌されることが明らかとなった(論文投稿中)。ここで用いた市販のpro-domain BDNF抗体はラビット・ポリクローナル抗体であるが、ロット間でその感度・特異性に大きな違いが生じた。現在、利用可能なロットではpro-BDNF及びpro-domain BDNFの特異的な検出が極めて困難な状態である。そこで昨年より、産業技術総合研究所の小島正己先生と北里大学医学部の高橋正身先生との共同研究により、本研究の目的にかなうマウス・モノクローナルpro-domain BDNF抗体の開発に着手した。現在、候補抗体のスクリーニングを行っている。一方、mature BDNFとpro-domain BDNFとの複合体形成の可能性について解析を進めた。小島正己先生との共同研究により、リコンビナントmature BDNFとpro-domain BDNFの複合体形成をビアコア法により調べた結果、濃度依存的にこの複合体が形成されることを見出した。現在、共免疫沈降法・ウエスタンブロット法で、この複合体形成が観察されるか、及び、実際の脳内でも複合体を形成しているのか、解析中である。
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