研究概要 |
成熟脳で発現が高い脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor, BDNF)は、まず前駆体蛋白質(pro-BDNF)として作られ、その後、細胞内プロセッシングを経て生理活性を持つ成熟体蛋白質(BDNF)となる。中枢神経細胞においてBDNFは、シナプス可塑性の制御に重要である。一方、もう1つのpro-BDNF切断産物であるpro-domain BDNFについては、これまで機能はおろか、その存在さえ確認されていなかった。本研究は、このpro-domain BDNFに着目し、脳機能における役割の解明、およびうつ病の病態解明を目指したものである。本年度は、昨年度に引き続き主に内在性pro-domain BDNFの特異的な検出システムの確立、およびpro-domain BDNFの基礎知見の収集に取り組んだ。その結果、(1)市販のpro-domain BDNF抗体(ラビット・ポリクローナル)を用いた免疫沈降法及びウエスタンブロット法により、マウス脳ライセートにおける内在性pro-domain BDNFの特異的な検出の成功し、(2)pro-BDNFのプロセッシング後、pro-domain BDNFはBDNFと共に軸索末端まで輸送され、細胞外へ分泌されることを見出した(以上、論文投稿中)。さらに、(3)pro-domain BDNFがBDNFと複合体を形成することを見出した。また、(4)産業技術総合研究所の小島正己先生と北里大学医学部の高橋正身先生との共同研究により、マウス・モノクローナルpro-domain BDNF抗体の開発に取り組み、現在、内在性pro-domain BDNF検出特異性を確かめている。(5)うつ病との関連を調べるために、ヒト血清中pro-domain BDNF検出システムの確立に取り組んだ。まずラット血清を用いて前検討を行っているが、現時点では特異的な検出には至っていない。(4)で開発中の新たなモノクローナル抗体を用いて、血清pro-domain BDNF検出を目指したい。
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