高齢化社会に伴い、難聴に対する社会的関心が高まっている。これまでの報告によると感音難聴の背景に内耳虚血が存在すると推察されている。我々はこれまでに一過性内耳虚血モデルを確立し、虚血後に内有毛細胞に進行性の脱落や聴力障害が生じることを明らかにしてきた。 一方、脳虚血に関する基礎的研究では、虚血後のわずか数℃の体温低下が虚血・再還流による脳神経細胞障害に対して保護効果を持つことが明らかになっている。我々の内耳虚血障害研究グループはこれまで、スナネズミの一過性内耳虚血モデルを用いて、虚血障害が生じる前から低体温を負荷した場合には蝸牛有毛細胞の聴力閾値の上昇が有意に抑制されることを報告しているが、さらに臨床の現場で低体温療法を用いるためには、内・外有毛細胞障害の病態を明らかにし、更に虚血障害後の低体温がその病態に及ぼす影響や低体温開始のタイミング、低体温の持続時間等を検討することは不可欠である。 虚血性内耳障害における低体温という新しい治療法を開発することを研究の目的として、今年度は、1)虚血負荷時間を30分に延長し、外有毛細胞における障害を検証すること、2)虚血後に動物に低体温を施行し、虚血後の内耳における内・外有毛細胞障害が抑制されるかどうか、について検討を行った。 1) 外有毛細胞の形態変化 虚血負荷時間を30分に延長した場合、外有毛細胞のシナプス間隙における樹状突起に空胞変性や細胞膜の脱落所見が散見された。 2) 有毛細胞障害の観察と定量 蛍光顕微鏡にて基底回転の有毛細胞数の脱落細胞数率を算出いた結果、虚血1時間後から低体温を負荷した場合には内有毛細胞の脱落細胞数率が有意に抑制された。 以上の結果より、虚血内耳障害では虚血時間が延長されることによって外有毛細胞においても障害が誘導され、またそれらの障害は虚血後に低体温を負荷することによって生理学的にも組織学的にも抑制されることが明らかとなった。
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