本年度は、エナメル上皮腫細胞株AM-1にSprouty2を強制発現させることで、FGF刺激によるERK1/2の活性化を抑制するものの、EGF刺激による活性化は増強させることをウエスタンブロット法により示し、それに伴う骨芽細胞・破骨細胞の分化誘導を誘導する各種サイトカインの産生を制御していることを示した。また、PI3-K-Akt経路においては、FGF刺激によりSprouty2がAktのリン酸化を抑制し、抗アポトーシス効果を示すことが分かった。以上の結果は学会にて発表した。 また、Sprouty2遺伝子欠損マウスにおいては、エナメル上皮腫が発症することのある上顎骨部分-口蓋に裂を形成することを発見した。そのメカニズムとしてFGF刺激が増強されることで、口蓋突起のエレベーションが阻害されるのではないかという仮説に基づき、実験を行った。まず口蓋における癒合不全が上皮によるものなのか、それとも間葉によるものなのかを調べるため、マウスの口蓋の器官培養を行い、舌の非存在下ではsiRNAを用いてSprouty2をknock downしても癒合することが分かった。このことから間葉における異常が口蓋裂発症に関与していることが示唆されたため、Sprouty2遺伝子欠損マウスの口蓋における、間葉系細胞の増殖活性をKi-67の免疫染色にて調べた。その結果、Sprouty2遺伝子欠損マウスの口蓋間葉細胞は野生型のものと比較して、有意に増殖活性が高かった。以上の結果は学会発表のみならず論文雑誌にも掲載することができた。 これらの結果は、Sprouty2がFGFシグナルのアンタゴニストとして頭頸部領域の疾患に深く関わっている一方、EGFシグナルに関しては増強因子として作用し、腫瘍の増殖にEGF刺激が深く関与していることを示唆することにつながった。
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