アルコール依存症に関する研究は国内外である程度行われているものの、その有力な打開策に乏しい。そこでアルコール依存症者が飲酒に至ったきっかけから依存の形成、回復過程に至る実態を感情の側面から把握し、アルコール依存症者の飲酒につながる感情体験の分析を行うことによってアルコール依存症者の体験の意味や本質の明確化を試みた。研究参加者は、現在アルコール依存症者のための自助組織に通い断酒を継続し、本研究の参加基準を満たし同意の得られた36名である。研究参加者に行った半構造化面接の録音から逐語録をおこし、累積KJ法による段階的なデータの分析を行うとともに、KJ法本部川喜田研究所や他研究者とのワークショップ、大学院ゼミ等における意見交換やスーパービジョンを受け、研究結果の妥当性の確保に努めた。累積KJ法は一般的に問題提起、状況把握、本質追究、構想計画、具体策、手順化の6ラウンドに分けられ、問題提起ラウンドにおいては、アルコール依存症者は窮地に陥り医療の場に登場しても断酒継続しか回復の方法がないことや、看護職から関与困難とみなされ支援の機会を逸しがちであることがわかった。そもそもアルコール依存症者についての統計的数値はまちまちであり、実態の把握自体が困難であり、慎重な対象理解が求められていることが示唆された。状況把握および本質追求ラウンドにおいては、研究参加者は飲んでも飲まなくても孤独で絶望しがちな気質への対処法としてアルコールを摂取しているうちに依存症になっていたが、依存症であることを認めたくない気持ちや、酒だけを救いとする信念があるため、受け入れがたい現実と自らの思いとの間で葛藤しながら自らと類似した体験をもつ人々との支えあいのなかで時間をかけて状況改善の方向に視点が変化していくことがわかった。今後本質追及をさらに深めたうえで、構想を練り具体策の手順化を行い、アルコール依存症への具体的な看護介入を検討する。
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