アルコールの過剰摂取は、アルコール依存症はもとよりアルコール性肝硬変をはじめ様々な生活習慣病の引き金にもなるうえ、酒気帯び運転などの社会的問題にもつながるが、決定的な打開策に乏しく、古くて新しい問題である。アルコール依存症者の回復の基本は想像以上の困難を伴う断酒である。一般にアルコール依存症者は、自らが依存症であることを認めにくい上、たとえ周囲のサポートによって医療の場に現れても、気分の落ち込み、焦燥感、ストレスによって関与する人々に攻撃的態度を示しやすく、看護職は当事者に対して陰性感情をもちやすく看護介入しづらい。そこで本研究においては、アルコール依存症者が示す感情に焦点をあて、アルコール依存症者の飲酒欲求につながる感情体験を明らかにし、分析を行うことによってアルコール依存症者への新たな看護介入への示唆を得ることを目的とした。研究参加者は、アルコール依存症者のための自助組織に通いながら断酒を継続し、本研究の参加基準を満たし、研究参加に同意した36名の男性である。参加者に半構造化面接を行い逐語禄を作成し、累積KJ 法によりデータを段階的に質的に分析した。その結果、アルコール依存症者は自分だけの主観的世界にこだわり、否定と肯定、反発と受容、甘えと行動が反転しながら循環し、葛藤し続けていた。何等かの個別の目標をたてて自分だけの主観的世界から飛び出し、客観的視点を得ながら体験を重ねる必要性が示唆された。飲酒を「やめたい」、「やめられない」といった自我意識を払拭できるほどの動機づけを得られるような環境を整えることが示唆された。
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