HIV-1 envelope (env)エピトープの探索と中和抗体の開発に関しては、昨年度までにウイルスがCD4陽性細胞に膜融合で感染する際に形成されるenv-CD4融合複合体を膜融合中間状態で固定する至適条件を検討し、このenv-CD4膜融合中間体を高親和性抗体の産生が可能なGANP Tgマウスに免疫した。本年度は、膜融合中間体特異的に反応する抗体を78クローン樹立した。現在、反応性の高い15クローンを中心に、抗体の中和能と認識エピトープの解析を進めている。また、これらの抗体は膜融合過程で出現するエピトープを動的に追跡できるツールとして利用可能であるかを検討中である。膜融合機序の解明に役立つものと期待される。 宿主CD4に対するHIV-1感染阻止抗体の開発においては、昨年度までに293-CD4細胞上のCD4細胞外領域を認識する抗CD4抗体を9クローン樹立した。R275抗体はin vitroのHIV-1感染実験において顕著に感染を阻害する活性を有することを明らかにした。またR275抗体はenv発現細胞とCD4発現細胞の共培養による細胞膜融合を抑制した。本年度は、種々の抗CD4抗体との競合結合実験から、R275抗体はOKT4抗体エピトープの近傍の立体構造を認識することを明らかにした。R275抗体は、未報告のHIV感染阻止エピトープを認識する新規抗CD4抗体であることが示唆された。R275抗体のエピトープとHIV感染阻害機序の詳細を明らかにするために、米国の研究グループと共同研究で結晶化構造解析を進めている。
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