平成22年度は、前年度に引き続き、精神障害者の家族が抱く「精神障害者が就労することへの想い」を追求する目的で、参加観察(「ある程度観察もするが参加が主」という立場)とインタビューにより、「家族員である精神障害者が就労すること」について、家族はどのような想いを抱いてきたか、それはどのように変化したのか、その経験に焦点を当て、精神障害者の家族会メンバーである11名(親やきょうだいの立場)の研究参加者から情報を収集した。その後、収集した参加観察でのフィールドノーツとインタビューの内容をまとめた逐語録を基に、定期的にスーパーバイズを受けながら分析を行い、論文完成に向けて取り組んだ。 分析の過程で、研究参加者の続柄や精神障害者の疾患、性別によって、精神障害者の家族が抱く「精神障害者が就労することへの想い」には大きく違いがあることが分かった。ありとあらゆる人間関係のうち、親子の絆ほど強力なものは、ふつうはないことから、すべての続柄の中で、最も強い苦しみを味わうのはおそらく親であろうという考えのもと、まず、親の立場で、統合失調症の息子を抱えている研究参加者のデータを、今回の研究では分析し成果としてまとめた。 本研究の結果と結論は、研究参加者は、【一人前になって欲しい】という親心から、働くことに向き合えない子どもに腹立たしさ・焦りを感じていた。しかし子どもにも働きたいという想いがあり、【子どもなりの活動と挫折の繰り返し】を体験していたことを知り、【親として就労より生活維持を優先してほしい】という想いに変わっていった。このような就労への期待とそれを阻む問題・諦めざるをえない葛藤状況への想いを充分に受け止めた情緒的な支援の必要性が示唆された。 本研究の成果は、平成23年6月に開催される第10回国際家族看護学会で発表後、学術誌に投稿する予定である。今後、研究参加者の続柄をきょうだい等に広げていき、研究を遂行していくことで、精神看護領域での実践に大きな寄与をもたらすものと考えられた。
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