研究概要 |
近年,ステントグラフト(ステントの周りを薄い人工血管材料で被覆した治療デバイス.大動脈瘤治療に使用され威力を発揮している)を用いた脳動脈瘤治療が検討され始めている.本研究では,脳動脈瘤のステントグラフト留置術における術前評価,特に瘤内へのエンドリーク(血流漏れ)の定量評価に供することのできる力学シミュレーション手法の開発を目的としている,エンドリークの定量評価のためには,医用画像に基づく患者個別の三次元血管形状モデルの構築,血管内でのステントグラフト留置状態の再現,流体力学に基づく血流シミュレーション,の各ステップが必要となる.本年度はまず,患者個別の医用画像から構築した複数例の血管モデルを対象として,ステントグラフト留置前の状態における血流シミュレーションを行い,瘤内部および瘤頸部における血流動態の特徴,ならびに瘤の形成位置の違い(蛇行・屈曲を伴う親血管のどのような位置に瘤が形成されているか)が瘤内への血液流入量に及ぼす影響について調べた.なお,いずれも内頸動脈に発生した瘤を対象としている.脳動脈におけるWomersoey数はそれほど大きくないが,今回対象とした症例において,定常流を仮定した血流計算と拍動性を考慮した血流計算とでは,同一の瞬時Re数においても瘤内への血液流入量は有意に異なるものとなった.また今回対象とした実症例において,瘤内部および瘤頸部における血流パターン,ならびに瘤内への血液流入量は,瘤の形成位置に大きく影響された.このことは,今井ら(Imai, Sato, et aL, 2008)が理想形状モデルによるパラメトリックスタディで示しており,同様の結果が確認された.以上より今後エンドリークの定量評価を実現するためには,血流の拍動性を考慮すべきであり,また血管走行や瘤形成位置の個体差を適切に反映することが不可欠といえる.
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