研究概要 |
現在,脳動脈瘤に対する血管内治療の主流はコイル塞栓術であるが,近年では,ステントグラフト-ステントの周りを薄い膜材で被覆した医療デバイス-を用いた脳動脈瘤治療が検討され始めている.特に,コイル塞栓の困難な,頸部の広い瘤や巨大瘤に対する有用な治療法として期待されている.ステントグラフトによる瘤治療(親血管へのステントグラフト留置術)においては術前の力学的評価が重要であり,それを可能とする計算手法の開発が望まれる.平成22年度はまず,瘤を伴う脳動脈および,その治療デバイスとしてのステント(膜材で被覆する前のベアステント)を3D-CADを用いてそれぞれモデリングし,それらを合成することによって,血管内でのステント留置状態を計算機上に再現できるようにした.続いて,計算流体力学による血流シミュレーションの手法を用いて,ステントを構成するストラット(骨格要素)の巻き数が,瘤内への血液流入に及ぼす影響について調べるとともに,非構造格子上で壁面せん断応力及びその空間勾配量を評価できる解析プログラムを構築した.瘤内への血液流入の評価項目は流入流量および最大流入速度とし,ステントを留置しない場合と比較して,これらの量がどの程度減少するかに注目した.これは,ステントによる瘤治療が,瘤内への血液流入の阻害とそれに伴う瘤内流動の停滞を主に意図するためである.ストラットの巻き数を,0(ステントなし)から24本まで変化させて定常流の血流シミュレーションを行った結果,ストラットの巻き数を増やすことによって瘤内への流入流量は単調に減少した.その一方で,流入最大速度についてはかえって増加する,すなわち瘤内への流入が局所に集中する場合もあることが明らかとなった.加えて,瘤とストラットの位置関係によっては,ステントを留置しない場合と比較して瘤内の血流循環が逆回転となるなど,流動構浩も大きぐ変化し得ることが明らかとなった。
|