高コレステロール血症治療薬のスタチンは、重篤な副作用として筋肉の細胞が障害をうける横紋筋融解症を起こす。本研究では、これまで明らかにしてきた横紋筋肉腫由来細胞でスタチンが起こす、非選択的なタンパク質分解機構のオートファジーと細胞死誘導が、横紋筋融解症の発症機構に関与していると考えて、その詳細な分子機構の解析を試みた。 平成22年度では、(1)gene trap法を用いた遺伝子破壊株からのスタチン耐性細胞のクローニング、(2)耐性細胞の破壊遺伝子の同定、(3)耐性細胞のオートファジーと細胞死の関連について解析を行った。まず、セリバスタチン耐性細胞のクローニングを行い、合計5株の耐性細胞を得ることが出来た。この耐性細胞の破壊遺伝子を3'-RACE法で解析した結果、細胞周期や糖代謝などに関連した遺伝子を同定した。この中で、細胞周期に関連した遺伝子が破壊された耐性細胞について解析を進めた。この細胞についてスタチン依存的なオートファジー誘導を調べた結果、野生株と同程度の誘導が起きた。以上の結果から、同定した細胞周期に関連する遺伝子は、スタチン依存的なオートファジー誘導の経路とは異なる経路で、細胞死の誘導を調節していることが示唆された。 今回得られた結果は、目的としていたオートファジーからの細胞死の誘導機構に直接関与するものではなかった。しかし、スタチンが引き起こす横紋筋細胞の障害を抑制する方法を考える上で重要な知見である。今後は、さらにスタチン耐性細胞のクローニングを進めて、オートファジー誘導に関連した因子の同定を目指す。また、細胞周期の調節に関与する遺伝子については、スタチン依存的な細胞死誘導を抑制する分子機構を解析する。
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