研究概要 |
胎児期低栄養は胎児成長のみでなく成人後の生活習慣病発症リスクの増加にも影響する。低栄養からの胎児・胎盤保護機構を明らかにするため、妊娠期低栄養モデルラットを作成し、低栄養曝露に対する胎盤における遺伝子発現制御を解析した。妊娠8日目から摂取カロリーを50%に制限した妊娠期低栄養モデルラット(低栄養群)を作成し、自由に餌を摂取させた対照群と共に、妊娠19日目に胎盤および母体・胎児血漿を採取した。その結果、低栄養群において胎盤重量、胎児重量の有意な低下が示され、低栄養状態にあることが裏付けられた。低栄養群胎盤においては、エネルギー貯蔵物質として機能するcreatineの前駆体であるL-arginineを輸送するcationic amino acid transporter 2b(Cat2b/Slc7a2)および、creatine合成酵素であるL-arginine,glycine amidinotransferase遺伝子発現量が有意に増加していることが明らかとなった。母体血漿中クレアチン濃度はカロリー制限群で有意に高かった一方,胎児血漿中、胎盤内クレアチン濃度には二群間で有意差は示されなかった.さらに、カロリー制限群胎盤では対照群と比較して,レプチン発現量は減少し,レプチン受容体発現量は増加し、胎児胎盤成長を制御するインスリン様成長因子2の発現量は減少していた.以上の結果から、低栄養環境に曝された胎盤は、creatineの合成促進に向けた遺伝子発現制御など、エネルギー代謝制御を受けていることが明らかとなった。本制御は低栄養状態に対する胎盤における代償性変化の一つとして、低栄養によって崩れたエネルギー代謝バランスを改善させるために生じた変化である可能性があり,重要な知見である。
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