神経難病多発性硬化症の経過において、脱髄軸策の髄鞘自然再生は不十分であり、患者の神経学的後遺症は残存することが多い。本症において髄鞘の自然再生が不良である原因は不明であったが、本研究代表者は多発性硬化症患者脳に残存するオリゴデンドロサイト前駆細胞にTIP30と呼ばれる因子が異常発現し、細胞質から核への転写因子等の輸送を妨げているのがその要因であることを特定した(Nakahara J et al.J Clin Invest 119:169-81(2009))。本研究課題は、多発性硬化症においてオリゴデンドロサイト前駆細胞にTIP30が異常発現する機構を解明し、将来的な新規治療薬開発に結び付けることを目的としている。 平成21年度には、これまで多発性硬化症において病巣に高発現していることが判明しているサイトカイン等の各種因子をデータベースより抽出し、既存のシグナル伝達経路よりして、TIP30を発現誘導せしめる可能性が高いものをリストアップし、それら各々について、培養オリゴデンドロサイト前駆細胞を使用して実際にTIP30の発現誘導が為されるかを評価することを計画した。 平成21年度研究実施可能期間は実質的に約6ヵ月であった。TIP30を発現誘導せしめる可能性が高い因子のリストアップは終了し、順次各種因子の培養オリゴデンドロサイト前駆細胞におけるTIP30発現誘導能の評価を実施しているが、平成21年度内に完全には終了しておらず、評価を継続中である(平成22年度以降に引き続き実施する予定である)。当該年度成果として、学会発表(招待講演)を1件行った。
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