本研究では、有機合成化学の力を用い、より正確な酵素やレクチン等による糖鎖認識機構の解明を目的としている。今年度は、従来法のビオチン-アビジン法よりも高効率・高感度な水晶振動子マイクロバランス(QCM)とファージディスプレイ(PD)を利用したQCM-PD法に自己組織単分子膜法を組み合わせ、糖鎖と相互作用するペプチドを短時間に効率よく高精度で同定する方法を確立した。具体的には、コンカナバリンAとの認識機構が解明されているトリマンノース構造にSAMを導入した新規機能性分子を合成し、QCM-PD-SAM法を用いて本化合物と相互作用するペプチドを同定し、得られたペプチドとコンカナバリンAとの相同性を確認することで、本法がペプチドと糖との弱い結合でも検出可能な手法であり、糖鎖認識機構の解明に役立つことを明らかにした。また、線虫ガレクチンLEC-6が認識するGalFuc構造の立体構造を解明するために、Galβ1-3Fuc及びGalβ1-4Fucに蛍光標識であるピリジルアミノ基(PA)とマンニトールを結合させたリンカーを導入することで、還元末端の糖の環状構造を保持した蛍光標識化分子プローブの合成に成功した。本化合物を用いてフロンタルアフィニティークロマトグラフィー(FAC)を行い、線虫ガレクチンLEC-6がGalβ1-3FucよりもGalβ1-4Fucに親和性を示したことから、線虫生体内においてLEC-6は、Galβ1-4Fucを含む糖鎖構造を主に認識していることが推察された。さらに、私は、Galβ1-4Fuc構造を有する分子プローブを合成し、現在QCM-PD-SAM法を用いてGalβ1-4Fucの糖鎖認識機構の解明に着手している。これと並行して、エーテル結合糖の血糖効果作用の解明を目指し、合成した数種類のエーテル結合糖について、グルコーストランスポーターを用いた生物活性の検討を他機関に行っていただいている。
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