本研究では糖鎖とタンパク質の弱く精緻な相互作用を解析するため、新たな糖関連機能性分子を化学合成により創出し、糖鎖が関る生命現象の解明のためのツールとして用いている。昨年度は、コンカナバリンAと結合することが知られているトリマンノースの分子プローブを化学合成し、新たなファージディスプレイ法であるQCM-PD-SAM法に用いることで、トリマンノースと結合するペプチド配列を同定することに成功した。今年度は、引き続き新たな糖結合性ペプチド配列の探索を行い、合計17種類の配列を同定することに成功した。これまでの一般的なファージディスプレイ法では同様の作業量で得られる結合性ペプチド配列は数種類であると想定されることから、QCM-PD-SAM法の効率性が確認できた。また、得られたペプチド配列に対し、ファージディスプレイ法に特化したバイオインフォマティクスツールであるRELICプログラムを用いることで、トリマンノースとコンカナバリンAとの結合部位について解析を行った。その結果、既知の結合部位と一致していたことから、本法の高精度性についても確認することができた。以上の結果より、申請者はQCM-PD-SAM法がタンパク質の糖鎖認識機構の解明に有用であることを明らかにした。今後は新たな糖鎖構造の分子プローブ化を行い、未知の糖鎖認識機構の解明に取り組む予定である。加えて、昨年度合成した数種類のエーテル結合糖を用いて、本年度は他機関にグルコーストランスポーターに対する生物活性の検討を行っていただいた。その結果、グルコースの6位と結合しているエーテル糖のみが選択的にグルコーストランスポーターを通過することがわかった。この結果は、エーテル結合糖の血糖降下作用への関与を示唆しており、新たな糖尿病治療薬の創製に非常に重要な知見であると考えられる。
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