ATF5はストレス負荷によりATF5 mRNA発現が誘導されるストレス応答性の転写因子である。近年、ATF5が神経細胞の増殖分化、アポトーシスに関与することが見いだされたが、その生理的機能については未だ不明である。そこで、ATF5の生体内における機能を明らかにするために、ATF5欠損マウスを作成した。生後2日目までに7割が死に至り、その致死の原因として、精神疾患を示唆する結果を得た。以上のことから、ATF5欠損マウスの脳、神経発生を解析することにより、ATF5の脳における機能を明らかにすることを目的とした。 平成21年度は、ATF5欠損マウスの脳や神経発生の解析を行い、ATF5欠損マウスの神経性疾患の分子メカニズムを明らかにした。ATF5欠損マウス脳にGFP発現ベクターを導入し、神経細胞を可視化し大脳皮質神経の発生過程を観察した。胎児期において大脳皮質の脳室帯で生まれた神経細胞は、大脳皮質表層へ移動し、最終的に6層構造を形成する。野生型マウスと比べて、ATF5欠損マウスの新生神経細胞の移動は遅れていなかった。さらに、ATF5の発現が抑制されている細胞のみを可視化するため、脳にGFPベクターとATF5発現抑制ベクターを導入して神経細胞の移動を観察したところ、ATF5欠損マウスと同様に神経細胞移動の遅延は観察されなかった。以上の事から、ATF5の大脳皮質形成において神経細胞の移動に異常はないと予想される。しかし、ATF5欠損マウスに脳神経疾患を示す行動が見られたため、平成22年度は、ATF5欠損マウスの行動の解析を行い、神経性疾患モデルマウスの確立を目指す。また、ATF5発現制御機構を明らかにするために、ATF5新規結合タンパク質の探索も行う。
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