本研究は、マイクログリアおよびアストログリアの活性化が、いかなるメカニズムで損傷下歯槽神経再生後に発症する疼痛異常に関与するかを解明することを目的とした。21年度は損傷下歯槽神経再生モデルラットの作製および、損傷下歯槽神経再生過程におけるマイクログリアおよびアストロサイト活性化の経時的変化を解析した。まず、7週齢のSD系雄性ラットを用いて以下の術式で損傷下歯槽神経再生モデルを作製した。左側オトガイ皮膚を切開し下顎骨を露出、切削し下顎管内の下歯槽神経およびオトガイ神経を露出させた。その2本の神経を同時に切断し、切断面を合わせて下顎管内に戻し皮膚を縫合した。神経切断後3、14、30日が経過した後、三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)におけるマイクログリアおよびアストログリアの活性についてそれぞれ抗Ibal抗体および抗GFAP抗体を用いて免疫染色を行い発現状態について検索した。その結果、神経切断3日後において、Sham群と比較してVcの第三枝領域にマイクログリアの強い活性化が認められた。その活性化は14日目まで継続し、30日目になるとほとんど活性化は認められなかった。第二枝領域においては、3日目でのみマイクログリアの活性化が認められた。一方、アストロサイトに関しては、神経切断後14日後においてのみ、Vcの第三枝および第二枝領域で活性化が認められただけであった。以上の結果から、下歯槽神経切断後の早い時期には第二枝、第三枝領域でマイクログリアの活性化が認められ、アストロサイトはそれより遅れて第二枝、三枝領域で活性化していた。つまり、グリア細胞はその種類によって活性化の時期が異なると同時に、その活性化は切断神経支配領域を超え、その周囲領域でも認められた。このことから、下歯槽神経損傷によってVc内の広い領域にグリア細胞の活性化が波及し、ニューロンの活動性を増強する可能性があると推察された。今後はグリア細胞活性とニューロン活動変調の関係についてさらに研究を進め、グリア細胞の活性化がいかなるメカニズムでニューロン活動変調に関与するかを明らかにする予定である。
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