本研究は、損傷下歯槽神経再生過程における疼痛異常発症メカニズムを解明することを目的とした。平成21年度の研究成果より、下歯槽神経損傷によって三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)内において切断神経支配領域を超えた広い領域にグリア細胞の活性化が波及し、ニューロンの活動性を増強する可能性があることが判明した。そこで、平成22年度は、同モデルラットにおいて、切断神経支配領域外である三叉神経第二枝領域の口ひげ部にカプサイシンを注入することで異所性痛覚過敏の発症を確認し、さらにこの痛覚過敏に対するTRPV1の関与について詳細に検討した。下歯槽神経切断後3、14および30日が経過した後、口ひげ部にTRPV1の選択的アゴニストであるカプサイシンを注入し、Vcおよび上部頸髄(C1-C2)において神経興奮マーカーであるpERKの発現変化について検索した。その結果、神経切断14日後において、Naive群と比較してVc/C1の第二枝領域において有意なpERK陽性細胞の増加が認められた。また、30日目ではpERK陽性細胞はほとんど認められなかった。この結果から、神経損傷14日後には、三叉神経第二枝領域においてカプサイシンによる異所性痛覚過敏が発症することが確認された。さらに、三叉神経節におけるTRPV1について検索したところ、第二枝領域においてTRPV1陽性細胞数の有意な増加が認められた。以上の結果から、下歯槽神経切断後に発症する切断神経支配領域外における異所性痛覚過敏には、TRPV1の機能亢進が関与する可能性が示された。
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