本年度は、化学物質が引き起こすマウス胚性幹細胞(ES-D3細胞株)のシトクロームp-450(cyps)および幹細胞マーカー(sox-2)発現変動について解析を試みた。化学物質としては、各種cyps誘導剤(3-メチルコラントレンおよびデキサメタゾン)および分化誘導剤(all-transレチノイン酸)、17β-エストラジオール(E2)を使用し、分化細胞であるマウス胎児繊維芽細胞(MEF)を比較対象とした。今回はcypsのうち、E2の代謝活性化に深い関わりがあるcypla1、cypla2およびcyplb1発現量についてリアルタイムPCR法を用いて解析した。ES-D3細胞株は、今回解析した全てのcyp分子種においてMEFよりも発現量が低く、特にcyplb1は1/500程度しか発現が認められなかった。また、cyps誘導剤に対する応答もED-D3細胞株およびMEF間で大きく異なる事が明らかとなった。特に著明な差が認められたのは、3-メチルコラントレンに対する応答であり、MEFでは未処置と比べてcypla1およびcyplb1発現量が数倍から10倍程増強されたのに対し、ES-D3株ではcypla1は数十倍の発現増強が認められたのに対し、cyplb1発現量にほとんど変化は認められなかった。このとき幹細胞マーカーであるsox-2は、all-transレチノイン酸処理により発現低下が見られ、3-メチルコラントレン処理では逆に発現が増強していた。このように、未分化な細胞では化学物質に対する応答が異なる事から、化学発癌物質によるDNA損傷パターンはMEFのような分化細胞と異なる事が示唆された。次年度では、E2の代謝活性体に対するES-D3細胞株およびMEFのDNA損傷パターンを比較するとともに、E2が乳がんモデル動物の乳腺高次構造に及ぼす影響について解析する。
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