本研究の目的は、多発性硬化症(Multiple Sclerosis;以下MS)に特有の疲労に対する介入方法を開発することである。平成21年度は、第1段階として本邦のMS病者の疲労に関する経験を、質的帰納的に明らかにした。 そこでは、「疲労による生活・自己への影響」「疲労への独自の対処」「対処の不完全さ」「疲労との共生」「疲労の周知不足という前提」など7のコアカテゴリーが生成された。 次に、本邦のMS病者の疲労に対する介入を検討するにあたって、欧米での先行研究における介入内容を複数名でレビューした。その結果、欧米でMS病者の疲労に対して最もよく使用されている非薬物療法が、Energy Conservation Courseで、これは病者のスケジュール管理や体の使い方の見直しを通して、疲労の改善を図るものであった。他には、電磁波を用いたもの、水中療法などの効果の検証が行われていた。これらは、いずれも専門家による支援や、特別な装置・施設を要するものである。これらに対して、第1段階での本邦のMS病者の状況からは、病者が一人で、簡単に自宅で行える方法が求められていると解釈できるため、他の方法を検討する必要があると判断された。そこで、リラクゼーション法に着目し、本邦のMS病者のニーズに合致する手法を模索した。その結果、漸進的筋弛緩法(Progressive Muscle Relaxation ; PMR)を試用することで合意した。これは、全身の骨格筋をターゲットに、自己訓練によって意図的に副交感神経を優位にさせ、リラックス状態を作り出すことを狙っている。Jacobsonによって1920年代に開発され、改定が重ねられてきたもので、本邦においては化学療法に伴う嘔気や不眠に対して研究されていることが分かった。以上より、第2段階として、平成23年度はPMRによる介入を行い、MS病者の疲労を改善する上での効果を、生理学的、心理学的な視点から評価する計画である。
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