児童虐待やネグレクトなどの不適切養育の理解・予防のためには、まず正常な養育行動を司る神経メカニズムを明らかにしなければならない。そこで我々は、哺乳や仔の安全を守るといった基本的な養育行動が哺乳類進化において保存されていることに着目し、マウスモデル系を用い、養育行動の神経メカニズムの解析を行っている。これまでの研究で、脳内養育行動中枢は視床下部内側視索前野(MPOA)にある前交連核(ACN)に存在すると考えられた。また、ACN及びその近傍にはオキシトシン、サイトロトピン放出ホルモン(TRH)の産生ニューロン及びバソプレシンの神経線維の存在が確認されている。本スタートアップ研究の目的は、これらの神経ペプチドの発現と養育行動との関連について調べることである。これらの3つの神経ペプチドは発生の起源が同じであること、それらのレセプターは全て7回膜貫通型のタンパクであることから、冗長的機能を持つ可能性が考えられる。この可能性について検討するために、平成21年度はこれらの神経ペプチドのレセプターまたはリガンドの各ノックアウト(KO)マウスを交配させることで、ダブルKOマウス系統を作成し、その養育行動について調べた。その結果、C57BL6/J系統の未交尾メスではオキシトシンレセプター(OTR)×TRHのダブルKOマウスで仔の連れ戻し行動の開始がやや遅くなる傾向が確認された。またC57BL6/Jと129/sVの交雑系統の未交尾メスではOTR×バソプレシンレセプター(AVPR)1b及びAVPR1a×AVPR1bの2種類の交配グループで仔を喰殺する個体が多く観察された。しかしながら、これらの全てのKOマウスにおいて、出産後の養育行動にはKOマウスと野生型との間で顕著な差は確認できていない。現在これらの各KOマウスを交配させトリプルKOの作成を試みている。
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